産業界におけるカーボンニュートラル研究会
大阪科学技術センターでは、2020年10月菅首相による宣言以降、日本の企業活動においてもその重要性が急速に増してきたカーボンニュートラルに正しく向き合っていくために、CO₂削減の延長線上ではなく、真のカーボンニュートラルシステムを実現するための技術について、業界横断で課題を共有、対策を議論する研究会を2022年2月に設立しました。まずは、2024年度末までに、カーボンニュートラルをどう捉えればよいのか、日本としてどういう方向性に向かうのかについて、一定の共通認識が得られることを目指して、活動を行っていきます。
2020年10月の菅首相による2050年カーボンニュートラル宣言により、日本においても低炭素から脱炭素へ舵が切られました。2050年に本当にカーボンニュートラルが実現できるかどうかは別として、人類としてはもはや不可避の課題となっています。
近年のESG投資の流れから、カーボンニュートラルに関しても、積極的な取組み姿勢が投資家から要求されており、カーボンニュートラルを宣言されている企業も多くみられます。ただ、すでに公表されているそれらの多くは、自社の事業活動の中でのGHGの排出をネットでゼロを目指すというもの(スコープ1 or 1 + 2)です。しかし、昨今の製造業においては、上流から廃棄までの製品のライフサイクルでの適合が求められ、これは、個社で責任の持てる範囲を超えていると言えますが、地球温暖化防止という本来の目的を達成する上では必要不可欠です。一方で、カーボンニュートラル宣言という言葉のせいか、何らかの定義のもと、企業などの単位でCO2排出量ネットゼロ(カーボンニュートラル)を達成することをコミットすることが必要条件のように思われがちですが、企業として地球全体のカーボンニュートラルを目指して企業活動を適合させていくこととは必ずしも同一ではありません。特に、各社が個別にスコープ3を含めたネットゼロを実現することは、必要でないばかりか、地球全体のカーボンニュートラルの達成に必要以上の余分なエネルギーを浪費し、全体最適の観点からは本末転倒の結果を招くことになりかねません。これらの状況の中で、本当に地球全体のカーボンニュートラルに適合した事業に変えていくには、自社の事業活動の範囲外でGHG排出の挙動を踏まえたうえで、それを抑制するためにはどのような方策があるのかまで踏み込んで検討し、全体最適のカーボンニュートラルシステムを想定した上で、自社の事業活動に落とし込む必要があります。このような活動は、個社単独で進められるものではなく、業界を横断した知識や知恵を共有化し、人類共通の課題解決に向けた率直な議論を積み重ねていくことが必要であると考えます。
大阪科学技術センター(OSTEC)では、産学官の連携の下、業界横断のこうした取組みに相応しい場を提供できるのではないかと考え、2022年2月に、本研究会を設立しました。
最終的なカーボンニュートラル社会を実現できるカーボンニュートラルシステムとはどういうものか、それを成立させるための技術オプションは何かを、業界を越えた知見の集約と率直な議論により、明確化・共有することにより、一社では対応できない対策立案に資することを主たる目的とします。
また、課題解決に向けた長期的な技術開発の促進につなげられるよう、業界を超えた技術者人脈を形成することも目的とします。
さらに、製造業を中心とした産業セクターにおいて、製品ライフサイクルを踏まえた、カーボンニュートラルの成立を総合的にとらえ、業界横断でその課題解決を加速することにより、関西および日本の産業の競争力を高め、持続可能な産業の発展につなげていくことを最終目的とします。
※結合型ライフサイクルシステムズ(超システムの例)
要素システム(各製品のライフサイクルシステム)は独立して運用・管理がなされるが、システム間の相互作用は、要素システムでは意図していなかった形で進化・発展していくため、超システム全体の動きを予測し、最適化することは困難である。
小林英樹著「持続可能システムデザイン学」共立出版 (2022) p.248 図8.1より
従って、最適システムの想定 → 構成要素の仕様決定 → R&D課題への落し込みという、通常のR&D計画手法は適用困難ということになります。
そこで、カーボンニュートラルシステム全体における相互作用を意識しつつ、要素システム毎に、最も合理的な最適解を探るしかありませんが、各要素システムごとの進捗にはばらつきが予想され、超システムにおける相互作用も変化するため、ゴールは単一ではなく、ローリングしながら前進させていく必要があります。従って、最終的なゴールは、会員が求める達成度に応じて会員ごとに異なることになると思われ、研究会として統一的な具体的達成度とその時期目標を設定するのは困難です。
2.中間目標とその達成に向けた計画
上記のような状況が避けられない一方で、会員の皆様の多くは、できるだけ早い時期に、「カーボンニュートラルをどう捉えればよいのか、日本としてどういう方向性に向かうのかについて、腹に落ちる一定程度の理解を得ること」を求められており、これを2024年度末までに達成することを当面の中間目標として設定しました。
2022年度は、今後どのように展開していくか予測困難なカーボンニュートラルをテーマとするため、まずは情報共有からとにかく始めるということでスタートを切りました。これまで研究会を進めてきた中で、カーボンニュートラルの全体像をとらえるためには、専門外の非常に幅広い分野の知識が必要となることが改めて認識されており、会員間で議論がかみ合っていくためには、一通りの知識の習得と一定の理解レベルへの到達が必要であると考えられます。
そこで、2023年度は、日本版カーボンニュートラルシステムを考える上で必要となる、技術面以外も含めた基礎知識を習得して会員が同じ土俵で議論できる状態を目指します。
そして、2024年度に、具体的な環境条件と重要技術の議論を通じて、日本の進むべき方向性とカーボンニュートラルシステムをイメージできる中間目標の達成(2024年度末)を目指していきます。
本研究会は、大阪科学技術センター技術開発委員会の下に設置され、会長の指導の下、幹事会が具体的な運営を立案します。
<2022年度運営体制>
会長 小林英樹 大阪大学大学院工学研究科 機械工学専攻 教授 http://www-ssd.mech.eng.osaka-u.ac.jp/index.html
幹事 住友電気工業(幹事長)
地球環境産業技術研究機構、産業技術総合研究所、
大阪ガス、大林組、関西電力、ダイキン工業、大和ハウス工業、日立造船、三菱電機
(今後、研究会に積極的にご参加いただける企業・研究機関に加入していただく可能性があります。)
事務局 大阪科学技術センター 技術振興部
(人数制限のあるイベント以外は何人でも参加可、飲食費・旅費等は別途徴収)
グループワークの参加費も含まれます。
2022年度は、今後どのように展開していくか予測困難なカーボンニュートラルをテーマとするため、まずは情報共有からとにかく始めるということで、全体の計画や目標を設定せずに、スタートを切りました。
カーボンニュートラルを考える上での最大の難しさは、自身のかかわる事業の範囲内で完結しないことであり、全体としてどうなるのかについて、一通りのバランスの取れた予備知識がまず必要であると考えられます。このため、講演会のプログラム編成にあたっては、全体を鳥瞰する視点を重視し、基本的な考え方や内外の政策動向を整理した後、日本のGHG排出量の多くを占める主要なセクターごとに実質的な責任を担う各業界のカーボンニュートラルに向けた取組みと課題の共有を目指しました。その後、内外のR&D動向の概要をレビューしたうえで、低炭素から脱炭素になることで、重要性が格段に上がったネガティブエミッション技術と、現状のままでは持続不能となる石油バリューチェーンの代替技術について、最新の技術動向を共有することとしました。
3月の公開イベントの開催の後、各回3名の講師を招いた講演会を8回、会場とzoomのハイブリッドで開催し、結果として、各回平均120名以上の参加がありました。会員の皆様の本研究会への主たる参加目的は、カーボンニュートラルに関する最新技術情報の収集や他社・異業種での取り組みの状況把握であったことから、開催した講演会は一様に高い評価を受けています。参加者からのご意見や感想からいえることは、基本的に皆他業界のことはほとんど知らないということで、大半の企業の講師からも、異業種での状況を知る機会がなく、カーボンニュートラルを考えるうえで異業種間で議論することの重要性を感じたとの感想をいただきました。また、他の講演会等では表面的な話に終始することが多いのに対して、議論が活発で、他では聞けないホンネの話ができる点も高く評価されています。
一方で、殆どの参加者は専門分野以外の話を聞くことになるので、講演の中身を正しく理解してもらうこと自体にも配慮が必要であることがわかり、講師へのきめ細かいリクエストや、研究会の要旨を作成して講演資料と合わせて論旨を後から追って理解できるようにするなど対策を講じましたが、さらなる工夫が必要であると思われます。そして、カーボンニュートラルを考えるためには、非常に幅広い知識が必要であることが改めて認識され、会員間で議論がかみ合っていくためには、さらに技術面以外も含めた知識の集積と理解が必要であることがわかりました。
また、業界横断での課題解決に向けた取組みのきっかけづくりという観点に関しては、コロナ禍で飲食を伴った懇親会形式の交流会が一度も開催できず、そもそも来場参加者の割合が少なく、十分な交流の接点が作れなかったため、満足な成果は得られなかったと思われます。
これらの課題については、2023年度の活動計画の中で対応していく予定です
年度テーマ「カーボンニュートラルにかかわる現状の把握と課題」
※講演会はすべてOSTEC会場とzoomのハイブリッド開催。各回、講演3件・総合討議(約3.5時間)+交流会(会場のみ、飲食の提供はなし)。
※各回の講演資料・研究会要旨は、会員ページでご覧になれます。
2022年3月29日(火) キックオフイベント
「カーボンニュートラルシステムの確立をめざして」
・研究会会長挨拶 大阪大学大学院工学研究科 機械工学専攻 教授 小林 英樹
・基調講演「カーボンニュートラル実現に向けた対策のあり方」
(公財)地球環境産業技術研究機構 システム研究グループリーダー 秋元 圭吾 氏
・研究会の概要・2022年度活動計画 (一財)大阪科学技術センター 常務理事 田畑 健
・名刺交換会
参加者 129 名(来場+ウェビナー)
「カーボンニュートラルをめぐる世界の現状と動向」
・講演①「日本版カーボンニュートラルシステムの論点」
大阪大学大学院工学研究科 機械工学専攻 小林 英樹 教授(研究会会長)
・講演②「IPCC AR6 WGⅢレポートの概要とカーボンニュートラルに向けた各国の動向」
(公財)地球環境産業技術研究機構 システム研究グループ 和田 謙一 主任研究員
・講演③「日本のゼロエミッション化に向けた政策の動向とその課題」
(一財)日本エネルギー経済研究所 工藤 拓毅 理事
・総合討議
・名刺交換会
参加者 127名(来場+Zoom)
・講演①「関西電力グループにおけるゼロカーボン社会への取り組み」
関西電力㈱ 研究開発室 研究開発部長 冨岡 洋光 氏
・講演②「都市ガスのグリーントランスフォーメーションに向けた技術革新への挑戦」
大阪ガス㈱ エネルギー技術研究所
エグゼクティブリサーチャー 大西 久男 氏
・講演③「カーボンニュートラル実現に向けたENEOS中央技術研究所の取組み」
ENEOS㈱ 中央技術研究所 先進技術研究所長 佐藤 康司 氏
・総合討議
・名刺交換会
参加者 155名(来場+Zoom)
「素材業界のカーボンニュートラルに向けた取組み」
・講演①「日本製鉄カーボンニュートラルビジョン2050」
日本製鉄㈱ 大阪支社 部長(技術統括)薄板商品技術室長 立花 伸夫 氏
・講演②「カーボンニュートラル社会の実現に向けた炭素-水素循環技術の開発」
旭化成㈱ 上席理事 研究・開発本部 化学・プロセス研究所長 鈴木 賢 氏
・講演③「カーボンニュートラルに向けた太平洋セメントの取り組み」
太平洋セメント㈱ カーボンニュートラル技術開発プロジェクトチーム
企画管理グループ 主席研究員 星野 清一 氏
・総合討議
・交流会(飲食なし)
参加者 131名(来場+Zoom)
・講演①「建設業界のカーボンニュートラルに向けた取組み 大林組の取り組みと課題紹介」
㈱大林組 執行役員 本社設計本部 副本部長 小野島 一 氏
・講演②「大和ハウスグループのカーボンニュートラルへの挑戦」
大和ハウス工業㈱ 技術統括本部 環境部 部長 小山 勝弘 氏
・講演③「脱炭素社会の実現に向けたHitz日立造船の取り組み」
日立造船㈱ 理事 脱炭素化事業本部 計画部長 美島 雄士 氏
・総合討議
・交流会(飲食なし)
参加者 123名(来場+Zoom)
・講演① 「トヨタ自動車のカーボンニュートラルへの取り組み」
トヨタ自動車㈱ CN開発部CN駆動・EHV開発室 室長 滝澤 敬次 氏
・講演② 「冷凍空調産業の最新動向とカーボンニュートラルに向けた今後の課題」
ダイキン工業㈱ CSR・地球環境センター 担当部長 北川 武 氏
・講演③ 「リコーにおけるサーキュラーエコノミー・環境エネルギー事業への取り組みのご紹介」
㈱リコー 環境・エネルギー事業センター 第二開発室長 原田 忠克 氏
・総合討議
・交流会(飲食なし)
参加者 145名(来場+Zoom)
・講演① 「脱炭素社会に向けたクリーンエネルギー戦略」
経済産業省 産業技術環境局 環境政策課
エネルギー・環境イノベーション戦略室長 三輪田 祐子 氏
・講演② 「グリーンイノベーションに向けた化学の技術動向」
早稲田大学 理工学術院 教授 関根 泰 氏
・講演③ 「カーボンニュートラル(CN)に関する海外R&Dの動向」
国立研究開発法人 新エネルギー産業技術総合開発機構 技術戦略研究センター
統括主幹(兼)調整課長 正影 夏紀 氏
専門調査員 鈴木 茂雄 氏
・総合討議
・交流会(飲食なし)
参加者 112名(来場+Zoom)
・講演① 「CO2地中貯留の海外動向および国内の社会実装に向けて」
(公財)地球環境産業技術研究機構 CO2貯留研究グループリーダー 薛 自求 氏
・講演② 「ネガティブエミッション技術として期待されるDirect Air Capture の開発について」
川崎重工業㈱ 本社 技術開発本部 技術研究所
エネルギーシステム研究部 主事 沼口 遼平 氏
・講演③ 「生態系を利用したCO2削減と地球規模でのカーボンニュートラルについて」
国立環境研究所 地球システム領域 領域長 三枝 信子 氏
・総合討議
・交流会(飲食なし)
参加者 92名(来場+Zoom)
・講演① 「人工光合成型グリーン水素製造技術の現状/展望:経済性とLCAの観点から」
三菱ケミカル㈱ エグゼクティブフェロー 瀬戸山 亨 氏
・講演② 「カーボンニュートラルに貢献するグリーンバイオプロセスの開発」
(公財)地球環境産業技術研究機構
バイオ研究グループ・グループリーダー/主席研究員 乾 将行 氏
・講演③ 「Carbon Neutral の国際海運に与える影響」
㈱商船三井 技術革新本部 技術部 理事 大薮 弘彦 氏
・総合討議
・今後の活動の進め方と2023年度の活動計画について 事務局
・交流会(飲食なし)
参加者 97名(来場+Zoom)
2023年度は、日本版カーボンニュートラルシステムを考える上で必要となる、技術面以外も含めた知識と課題の本質の理解を深め、業界も立場も異なる様々な参加者が同じ土俵で議論するのに必要な、カーボンニュートラルを取り巻く様々な観点からの幅広い分野の知識と考え方の習得を目指します。
・2023年5月~2024年1月に計8回開催、うち1回は、カーボンニュートラルにかかわる設備見学会。
・見学会以外の研究会は2022年度と同様な構成の講演会で、OSTEC会場とzoomのハイブリッド開催。各回、講演3件・総合討議(約3.5時間)+交流会(会場のみ、コロナの状況が改善した後は立食形式で実施)。
・定例研究会に合わせ、会員間の交流促進も兼ねたポスター発表会を1回開催。
・各回の具体的なテーマは、以下のようなものから2023年2月ごろ決定予定。
・カーボンニュートラルに向けた様々な枠組みと最新政策動向
・CO2排出削減量の評価手法・認証の現状と課題
・日本における再生可能エネルギーのポテンシャルと動向
・B2B製品製造業界におけるカーボンニュートラルに向けた取組み
・その他製造業等におけるカーボンニュートラルに向けた取組み
・他の持続可能性問題とカーボンニュートラルの関係
・カーボンニュートラルにかかわる内外の政策動向経済へのインパクト
・日本版カーボンニュートラルシステムの論点
・会員間での相互理解を深めるとともに、協業へのきっかけとなることを目的として、カーボンニュートラルに向けた取り組みを会員が発表するポスター発表会を定例研究会に合わせて1回開催します。
・定例研究会の講演を一つ減らして、ポスター発表の時間に充てる予定です。
・開催日の2か月前頃に発表の募集を開始する予定です。
・企業の若手技術者をメンバーとして、2023年度は、2か年計画で、日本版カーボンニュートラルシステムのイメージづくりをテーマに、小林会長の指導の下、ワークを行います。
・2023年度末に中間報告、2024年度の定例研究会の最終回で、最終報告を行っていただきます。
・2023年4~5月に参加募集を行う予定です。